【第70話】再会の約束

朝の空気は少しだけ秋の気配を帯びていた。

翔太は病院の新築工事現場で、歩行者の誘導をしていた。

「こちら、お通りください。」

いつものように誘導棒を振る翔太の耳に、どこか懐かしい声が届く。

「翔太さん!」

振り向くと、白いブラウスに紺色のスカートを着た一人の女性が笑顔で立っていた。

「……あかりちゃん!」

思わず声が弾む。

病気と闘っていた少女は、もう立派な大人へと成長していた。


「久しぶりだね。」

「本当に久しぶり!」

工事車両が途切れた合間に、二人は少しだけ話をする。

「元気そうで安心したよ。」

「うん。今は看護学校に通ってるの。」

翔太は目を丸くした。

「夢、叶えたんだ。」

「まだ途中だけどね。」

あかりは少し照れながら笑う。

「翔太さんがあの時、諦めないって教えてくれたから。」

翔太は首を振る。

「俺は何もしてないよ。」

「そんなことない。」

あかりは真っすぐ翔太を見つめる。

「あの日、病室で毎日話をしてくれたこと、ずっと覚えてる。」


ちょうどその時。

「翔太、車入るぞ!」

寺中が無線で知らせる。

「了解!」

翔太はすぐに仕事へ戻る。

大型ダンプを安全に誘導し、歩行者を止め、車両を通す。

その姿を、あかりは少し離れた場所から見つめていた。

以前は、ただ優しいお兄さんだと思っていた。

でも今は違う。

責任を背負い、誰かの安全を守る姿は、とても頼もしく見えた。


休憩時間。

「制服、似合ってるね。」

あかりが笑う。

翔太も照れくさそうに笑った。

「ありがとう。」

「私もいつか、この病院で働けたらいいな。」

「きっとなれるよ。」

迷いのない翔太の言葉に、あかりはうれしそうにうなずく。

「その時は患者さんを守る。」

「俺は病院の外で安全を守る。」

二人は顔を見合わせて笑った。

守る場所は違っても、人を思う気持ちは同じだった。


帰り際。

「また会える?」

あかりが少しだけ不安そうに尋ねる。

「もちろん。」

翔太は優しく答える。

「この現場はまだしばらく続くし。」

「よかった。」

その笑顔は、病室で見せていた少女の笑顔と少しだけ重なった。


夕焼けの空。

工事現場には今日も無事を知らせる静かな風が吹いていた。

翔太は誘導棒を片付けながら思う。

「あかりちゃん、本当に強くなったな。」

そして胸の中で、小さくつぶやく。

「俺も負けていられない。」

それぞれの夢に向かって歩き始めた二人。

その再会は、新しい物語の始まりだった。


つづく

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