【第68話】大雨の日の警備
朝から激しい雨が降り続いていた。
「今日はかなり降ってますね……。」
翔太は空を見上げながらつぶやいた。
隣で寺中がレインコートのフードを直しながら言う。
「こういう日こそ、いつも以上に気を引き締めるんや。」
今日の現場は道路工事の片側交互通行。
雨で視界が悪く、車のワイパーも忙しく動いている。
「まず一つ目。雨の日は運転手さんから、こっちが見えにくくなる。」
寺中は道路を指差した。
「フロントガラスに雨粒が付くし、夜ならライトの反射でもっと見えにくい。だから、いつもより早めに大きく合図を出すことが大事なんや。」
「なるほど……。」
翔太はいつもより大きな動作を意識した。
すると、一台の車がゆっくり近づいてきた。
運転手は前方を見づらそうにしている。
翔太は普段より手前で停止の合図を出した。
車は余裕を持って止まった。
「今の判断、よかったぞ。」
寺中がうなずく。
「雨の日は『相手が見えていないかもしれない』と思って動くんや。」
その時だった。
後ろから無線が入る。
『こちら坂上。路面がかなり滑りやすくなっています。注意してください。』
「了解です。」
翔太が返事をする。
寺中が続けた。
「二つ目。雨の日は道路が滑る。」
「車もですか?」
「そうや。特にマンホールの上や白線の上は滑りやすい。急ブレーキが利かんこともある。」
その言葉の直後、一台の車が停止位置手前で少しだけタイヤを滑らせた。
キュッ。
運転手はすぐに止まったが、翔太は思わず息をのんだ。
「怖いですね……。」
「だから停止位置の少し手前から合図を出すんや。余裕を持たせることが事故を防ぐ。」
翔太は大きくうなずいた。
昼前になると、雨はさらに強くなった。
道路の向こう側がかすんで見える。
その時、無線が入る。
『こちら坂上。大型車がそちらへ向かいます。視界がかなり悪いので注意してください。』
「了解!」
翔太はすぐに返事をした。
寺中が言う。
「三つ目。そして一番大事なのが仲間との連携や。」
「連携……。」
「雨の日は、自分一人の目だけじゃ足りん。無線で状況を伝え合って、お互いを助けるんや。」
しばらくして大型ダンプが近づいてきた。
雨音でエンジン音も聞こえにくい。
しかし事前に情報を受けていた翔太は、落ち着いて対応できた。
ダンプが無事に通過すると、寺中が笑った。
「今のも連携のおかげやな。」
「はい!」
翔太も笑顔になった。
雨の日の警備は、ただ濡れて大変なだけではない。
見通しが悪くなる。
路面が滑りやすくなる。
いつも通りの感覚では危険が増えてしまう。
だからこそ――。
『早めの行動。余裕のある誘導。そして仲間との連携。』
それが、大雨の日の警備で最も大切なことなのだと、翔太は身をもって学んだのだった。
つづく
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