【第67話】人に求めすぎない

ある夏の日。

翔太は新人隊員の指導を任されていた。

「誘導棒はもっと大きく振って。」

「車が来たら、先に歩行者を確認して。」

「無線が入ったら必ず返事をして。」

何度説明しても、新人は同じミスを繰り返した。

翔太はだんだんイライラしてきた。

(なんでこんな簡単なことができないんだ…)

(ちゃんと説明したのに…)


休憩時間。

翔太はため息をつきながら缶コーヒーを飲んでいた。

そこへ坂上がやってきた。

「どうした?」

「新人が全然覚えてくれなくて…。」

「何回言っても同じことを繰り返すんです。」

坂上は少し笑った。

「翔太、お前も最初はそうだったぞ。」

「え?」

「誘導棒の持ち方を何回注意されたと思ってる。」

翔太は苦笑した。

確かに最初の頃は失敗ばかりだった。

車を止めるタイミングも遅かった。

無線の返事も忘れていた。

寺中や坂上に何度も教えてもらった。


「でも、自分はもっと早く覚えた気がします。」

そう言うと、坂上は首を振った。

「気がするだけだ。」

「人は自分の失敗は忘れる。」

「でも他人の失敗はよく見える。」

翔太は黙った。

坂上は続けた。


「人に期待するのは悪いことじゃない。」

「でも期待が大きすぎると、思い通りにならなかった時に腹が立つ。」

「それが続くと、自分が疲れる。」

風が吹いた。

工事現場のカラーコーンが小さく揺れた。

「相手に求める前に、まず教える。」

「教えたら待つ。」

「待ってもダメなら、また教える。」

「それくらいでちょうどいい。」

翔太は缶コーヒーを見つめた。


最近、自分は周りに求めすぎていたのかもしれない。

仕事でも。

友人でも。

家族でも。

みんな自分と同じ考え方ではない。

同じ経験をしているわけでもない。

現場に戻ると、新人が慌てながら誘導をしていた。

まだぎこちない。

でも、朝よりは少し良くなっている。


翔太は近づいて声をかけた。

「さっきより良くなってるよ。」

新人は驚いた顔をした。

「本当ですか?」

「うん。焦らなくていい。」

その瞬間、新人の表情が少し明るくなった。

その日の帰り道。

夕焼けの空を見ながら翔太は思った。

人は思い通りには動かない。

だからこそ、相手を変えようとするより、自分の接し方を変えた方が早い。


求めすぎると苦しくなる。

認めることができると、少し楽になる。

翔太は静かに空を見上げた。

成長には時間がかかる。

それは、自分も同じだったのだから。


つづく

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