【第74話】見えない仕事朝の現場。
翔太はいつものように無線機を確認し、誘導棒のスイッチを入れた。
配置表を見て、今日の搬入予定を確認する。
「今日は昼前が忙しくなるぞ」
寺中さんが言った。
「了解です!」
翔太は正面入口へ向かった。
昼前になると、搬入車両が続けてやってきた。
歩行者を先に通し、車を一度止める。
反対側から来る自転車を確認してから、誘導棒を振る。
「どうぞ!」
車がゆっくりと入っていく。
事故もない。
トラブルもない。
いつも通りの光景だった。
休憩に入った翔太は、ふと寺中さんに聞いた。
「警備の仕事って、何も起きなかったら、何をしたのか分かりにくいですよね」
「それでええんや」
「え?」
「事故が起きてから止めるんやなくて、起きんようにするのが俺らの仕事やろ」
翔太は少し考えた。
確かにそうだった。
無線機を確認する。
搬入予定を見る。
車の動きを見る。
歩行者を見る。
どれも特別なことではない。
誰かに褒められることもない。
でも、一つでも怠れば、小さな危険につながるかもしれない。
「見えない仕事ってことですか」
「そういう仕事ほど、大事やったりするんや」
夕方。
翔太は日報を書いていた。
今日も事故はなかった。
トラブルもなかった。
特に報告するような出来事もない。
翔太は最後に、
「特記事項なし」
と書いた。
「ええ日報やな」
後ろから寺中さんの声がした。
「何も書くことないですよ?」
「何も起きんかったってことやろ」
翔太は日報を見つめた。
以前なら「特記事項なし」は、何もしていないように感じたかもしれない。
でも今は違う。
誰かが確認しているから、事故が起きない。
誰かが準備しているから、いつも通りに一日が進む。
世の中には、そんな「見えない仕事」がたくさんある。
そして警備も、その一つなのだ。
翔太は少し笑った。
今日も誰かに褒められたわけではない。
目立つような仕事をしたわけでもない。
それでも、
誰かの「何も起きなかった一日」を守ることができた。
それでいい。
見えない仕事は、
見えないところで、
ちゃんと誰かを支えている。
つづく
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