【第73話】変わらない笑顔

夏の夕方。

仕事が休みの日。

翔太が玄関のドアを開けると、小さな足音が聞こえた。

「あっ翔太だっ!」

まるが一目散に駆け寄ってくる。

何日も会っていなかったはずなのに、昨日まで一緒にいたかのように、まっすぐ胸へ飛び込んできた。


「ただいま。」

翔太が抱き上げると、まるは満面の笑みで顔を見上げる。

しっぽを大きく振りながら、何度も頬をすり寄せてくる。

「そんなに喜んでくれるの?」

まるは答える代わりに、もう一度ぎゅっと抱きついた。

その様子を見ていたあかりが、優しく微笑む。


「動物って、不思議ですよね。」

「どんなに久しぶりでも、『この人は大丈夫』って信じてる。」

翔太はまるの頭をそっとなでた。

「そうだね。」

「何もしていないのに、こんな笑顔で迎えてくれる。」

まるは翔太の腕の中で、安心しきった表情をしている。

その姿を見ていると、翔太の心まで穏やかになっていく。

あかりが続けた。


「信頼って、言葉じゃないんですね。」

「毎日の積み重ねが、心に残るんだと思います。」

翔太はふと警備の仕事を思い出した。

現場で交わす挨拶。

困っている人への声掛け。

毎日繰り返す小さな行動。

目立つことではない。

でも、その積み重ねが信頼になる。

まるは何も説明を求めない。

何も証明を求めない。

ただ、「翔太だから大丈夫。」

その気持ちだけで笑っている。


翔太は静かにまるを抱きしめた。

「ありがとう。」

その一言だけで十分だった。

人は、信頼されると強くなれる。

そして、信頼することもまた、人を幸せにする。

まるの変わらない笑顔は、

翔太がこれまで積み重ねてきた毎日を、

何よりも正直に映し出していた。

信頼は、言葉ではなく、日々の積み重ねから生まれる。

変わらない笑顔は、その積み重ねに対する、いちばん素直な答えなのかもしれない。


つづく

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