【第60話】置かれた場所でどう咲くか

春のやわらかい風が吹く、昼下がりの現場。
住宅街の舗装工事で、翔太と花吉は片側交互通行の誘導に立っていた。

「はい、どうぞー!」

翔太の声はいつも通り明るく、通る車もどこか安心したように進んでいく。

一方、その隣で立つ花吉は、どこか元気がない。

「……」

誘導棒を振る動きも、少しだけ鈍い。


休憩時間。
自販機の前で缶コーヒーを開けながら、翔太は声をかけた。

「花吉くん、なんか元気ないな?」

「……なんでもないです。すみません。」

苦笑いを浮かべる花吉。

少し間を置いて、ぽつりと話し始めた。

「俺、本当は…商社に行きたかったんです」


「へぇ、そうなんや」

「海外で仕事して、いろんな人と関わって…
なんか、でっかいことやりたかったんですよ」

缶コーヒーを見つめながら、続ける。

「でも今は、ここで警備してて…。
仕事には慣れてきたけど、なんか…これでいいのかなって」

風が少し強く吹いた。


翔太は、少しだけ空を見上げてから言った。

「なるほどなぁ」

そして、にこっと笑う。

翔太は地面に咲いている、小さな雑草の花を指さした。

「これ見てみ?」

花吉も視線を落とす。


アスファルトの隙間から、小さな白い花が咲いていた。

「こんなとこでも、ちゃんと咲いてるやろ?」

「……はい」

「俺な、思うねん。
どこにおるかより、“どう咲くか”やなって」

花吉は黙って聞いている。

「商社でも、警備でも、どこでも一緒やと思う。
雑にやるやつは雑やし、ちゃんとやるやつはちゃんとやる」

翔太は軽く笑った。


「俺は今ここやけど、ここで“ええ仕事したな”って思える毎日の方が好きやねん」

少し照れくさそうに続ける。

「どうせやるなら、かっこよく咲いた方がええやん?」

その言葉に、花吉はふっと笑った。

「…なんか、翔太さんらしいですね」

「やろ?」

「でも…ちょっと気持ち楽になりました」

遠くで工事車両の音が鳴る。


「よっしゃ、後半いくで!」

翔太は立ち上がり、いつもの調子で現場へ戻る。

花吉もその後ろを追いながら、ふともう一度足元を見る。

さっきの小さな花。

「……」

誘導棒を握り直す手に、少しだけ力が入った。

「はい、どうぞ!」

さっきよりも、少しだけ大きな声が出た。

その声は、現場にしっかりと響いた。

置かれた場所は、変えられないこともある。
でも、どう咲くかは、自分で決められる。


つづく

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