【第81話】いつもと違う
朝の七時半。
翔太は正門に立っていた。
「おはようございます!」
毎朝通る社員さん。
いつもの営業車。
荷物を積んだトラック。
毎日、
同じような朝がやってくる。
でも最近、
翔太には少しずつ
違うものが見えるようになった。
いつも八時に来る人が、
今日は来ない。
いつも閉まっている窓が、
今日は開いている。
そんな小さな違いだ。
九時を過ぎたころ、
正門の近くに
一台のワゴン車が止まった。
運転席の男性は、
スマートフォンを見ている。
五分たった。
まだいる。
十分たった。
まだいる。
「……長いな」
そこへ寺中さんが来た。
「異常ないか?」
「特には……」
翔太は答えかけて、
ワゴン車を見た。
「あの車、
ずっと止まっています」
しばらくすると、
男性が車から降りてきた。
「すみません」
「はい」
「荷物を届けたいんですが、
入口が分からなくて」
初めて来た配送業者だった。
翔太は搬入口を案内した。
男性は礼を言って、
車へ戻っていった。
「普通の人でしたね」
翔太が言うと、
寺中さんは笑った。
「それでいいんだよ」
「え?」
「何もなかった。
それが一番いい」
そして続けた。
「でも、お前は
いつもと違うと思ったんだろ?」
「はい」
「それが大事なんだ」
怪しい人を探すことだけが、
警備ではない。
いつもあるものがない。
いつもないものがある。
いつも閉まっている扉が、
開いている。
「何か違う」
そこに気づくこと。
午後の巡回で、
翔太は非常口の前に
段ボール箱を見つけた。
誰かが置いただけだろう。
でも、
ここは非常口だ。
翔太は無線で報告した。
箱はすぐに移動された。
大きな事件ではない。
それでも、
翔太は少し嬉しかった。
警備室に戻ると、
寺中さんが言った。
「今日はよく見えてるな」
「いつも見てますよ」
「見るのと、
気づくのは違うぞ」
仕事を終え、
翔太は駅へ向かった。
いつもの帰り道。
ふと、
道端に小さな花を見つけた。
「あれ?」
毎日通っているのに、
今まで気づかなかった。
今日咲いたのだろうか。
それとも、
ずっと前から
咲いていたのだろうか。
見ることと、
気づくことは違う。
翔太は小さな花を見て、
少し笑った。
警備の仕事を始めてから、
今まで見えなかったものが、
少しずつ、
見えるようになっていた。
つづく
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