【第39話】 あの日の約束、再び
朝の冷たい空気の中、翔太はいつものように工事現場で立哨に立っていた。
今日の現場は、堺市内にある看護学校前の道路工事。登下校の学生が多く、慎重な誘導が求められる。
赤い誘導棒を握りながら、翔太はふと遠い記憶を思い出していた。
──総合病院で出会った、あの少女。
難病で入院していたが、強く前向きに笑っていた。
「元気にしてるといいな……」
ちょうどその時だった。
白いリュックを背負い、ゆっくり歩いてくる女の子がいた。
肩までの髪が揺れ、制服の胸元には「看護学科」の名札。
翔太は思わず目を見開いた。
「あ、あかりちゃん?」
女の子も足を止め、じっと翔太を見つめ返す。
数秒の沈黙のあと──
「……翔太兄ちゃん?」
笑った。
あの時と同じ、いや、もっと強くなった笑顔で。
翔太の胸の奥がじんわり熱くなる。
「元気になったんだな!いや、ほんまによかった……!」
あかりは照れたように微笑む。
「うん。病気、奇跡みたいに治ったの。
それで私……人を助けられる人になりたくて。
看護士になりたいって思ったんだ。」
翔太は目を細めた。
「似合ってるわ。あかりちゃんなら、絶対ええ看護士さんになる。」
車が近づき、翔太は一度会話を中断して誘導する。
その姿をあかりは静かに見つめていた。
(翔太兄ちゃん……前より、ずっと頼もしくなった気がする)
誘導を終えて戻った翔太に、あかりは小さな声で言った。
「また……お話してもいい?」
翔太は大きく頷いた。
「もちろん。俺でよかったら、いつでも。」
朝の光の中で、
未来へ向けて歩き出した二人の心が、そっと重なった。
続く


