【第37話】後輩に教える片側交互通行
今日は、入社して一週間の新人・山野くんとペア。
現場は市道の舗装工事で、片側交互通行の規制。
翔太自身、つい最近まで先輩に怒られながら覚えたばかりだ。
「翔太さん……片側って、どのタイミングで車を流せばいいんですか?」
少し不安そうに聞いてくる山野くん。
「まず、何よりドライバーさんにお願いしている立場だということを忘れたらあかん。
そして誘導に従っていただいたら、心から感謝する事が大事や。
誘導する警備員は、みんなそうしてるんやで。」
翔太は笑ってヘルメットを軽くたたいた。
「車を流すには、“見る位置”が大事やねん。」
翔太は山野くんを自分の立ち位置に連れていき、指差す。
1.上流(対向側の誘導員)を見る
2.下流(自分側の車列)を見る
3.工事車両の動きも見る
「この3つ、絶対に切らしたらあかんで。
向こうの旗が“止め”なら、絶対こっちを“行け”にしないこと。
あと、信号は必ず守って誘導すること。
バス、タクシーは最優先で通すように。」
山野くんは何度も頷く。
翔太は実演しながら教える。
1.車列の先頭のドライバーと目を合わせる
2.体で大きく“行ってください”の合図
3.車が動き出しても、絶対に目を離さない
4.一方の誘導が終わったら頭を下げる。
「後ろの車はな、先頭の車を見て動くねん。
せやから、先頭にしっかり伝えるのが仕事やねん。」
山野くんは「なるほど…!」と感心している。
次の車を流すタイミングを見計らう山野くん。
まだぎこちないが、一生懸命だ。
突然、後ろの車がクラクションを鳴らした。
山野くんが焦って腕を上げかけたその瞬間──
「おちつき!」
翔太がやわらかい声で止めた。
「クラクションは気にせんでいい。
安全優先。焦ったら、一番アカン。」
山野くんは深呼吸をして、もう一度周囲を見回した。
規制が終わり、片付けをしながら山野くんが言った。
「翔太さん……僕、今日で少し自信つきました。」
翔太は笑って肩を叩いた。
「最初はみんな怖いねん。でもな、
今日みたいにちゃんと安全を見れる警備員って、ほんま大事やで。」
夕焼けの現場で、二人の誘導棒の光がほのかに揺れた。
翔太は心の中で思った。
(俺も、いつの間にか“教える立場”なんやな……)
つづく

