【第35話】外人さん、どこ行くの?!
朝の通勤ラッシュがひと段落したころ。
翔太は、駅前の工事現場で通行誘導をしていた。
いつものように、「おはようございます!」と元気に声を出し、
通勤客の流れが落ち着いたそのときだった。
「Excuse me… Where is Sakai City Hall?」
突然、外国人の男性がにこやかに話しかけてきた。
金髪で背の高い人だ。翔太は一瞬で固まった。
「えっ… えーっと……シティ…ホール??」
思わず笑顔を引きつらせながら、
指をさして「あっち…?」と方向を示す。
だが男性は首をかしげる。
「No… Sakai City Hall. Government office.」
翔太の頭の中は真っ白。
――英語、まったく出てこない!
そこへ通りがかった通行人の女性が、
「Oh! City Hall? Go straight, then turn right at the next signal!」
と軽快に答える。
男性は「Thank you!」と笑顔で立ち去った。
翔太はただ、ぽかんとその背中を見送った。
休憩時間。
寺中さんが笑いながら缶コーヒーを差し出す。
「どうした、顔真っ赤やないか」
「いや、英語で道聞かれて……全然しゃべれなかったんです」
「ははは、そうか。
でも、お前の“あっち”ってジェスチャー、
なんか気持ちは伝わってたぞ」
「そうですかね……でも悔しくて」
翔太は缶コーヒーを見つめながら、
ふと思った。
――もし、もう少し話せたら。
もっと堂々と対応できたかもしれない。
その夜。
スマホを開いた翔太は、
「英会話練習方法」と検索していた。
「よし…やってみるか!」
画面の向こうで、
「Hi! How are you today?」
英語の声が響く。翔太は緊張しながらも答える。
「I’m fine! I’m… Shota!」
少しぎこちないけど、
なんだか楽しい。
その夜、母の部屋から翔太の声が聞こえた。
「サカイ・シティ・ホール、イズ・ネクスト・ライト!」
母は笑いながらつぶやく。
「翔太、英語もがんばるのねぇ。」
to be continued.

