【第32話】交互に託す合図
昼下がり、国道沿いの片側交互通行の現場。
道路の片側は舗装工事で塞がれており、車は一方ずつしか通れない。
翔太は赤い誘導棒を握りしめ、反対側に立つ坂上さんと向き合っていた。
「翔太、無線と目線での確認、両方大事やぞ。どっちか欠けたら事故になる」
配置につく前、坂上さんから念を押されていた。
最初の数分はぎこちなく、無線のタイミングを外したり、誘導棒を振るのが遅れたりした。
「翔太、落ち着け。車は待っとる。焦らんでええ」
無線越しに坂上さんの声が聞こえる。その言葉に背中を押されるように、翔太は呼吸を整えた。
片側を止めて、こちらを流す。
反対を流すときは、必ず止めた側を確認してから。
何度も繰り返すうちに、だんだんリズムが取れてきた。
そこへ、大型バスがやってきた。
運転手は時計を気にしており、少し苛立ちを見せている。後ろには車列が長く伸びている。
「坂上さん、こっちバスきました!」翔太が無線を飛ばす。
すぐに坂上さんが車列を止め、遠くから大きく腕を振って「先に通せ」の合図を送ってきた。
翔太は赤い棒を振り、慎重にバスを誘導する。
すれ違いざま、窓から子どもたちが手を振ってきた。
翔太も思わず笑顔になり、小さく手を振ってこたえた。
だが、その直後。
工事車両のドライバーが勘違いして前に出ようとした。
翔太はとっさに誘導棒を大きく交差させ、坂上さんも同時に反応した。
二人の連携で、車両は寸前で止まった。
「危なかったな……」
無線越しに聞こえる坂上さんの声には安堵が混じっていた。
「でも、お前がすぐ止めたから助かった。
お互いを見てなきゃ、片交は務まらんからなぁ」
汗を拭いながら翔太は深くうなずいた。
自分ひとりではなく、仲間と呼吸を合わせるからこそ安全は守られる。
その瞬間、片側交互通行の現場が「ただの作業」ではなく「仲間との信頼で成り立つ仕事」だと実感した。
夕方、最後の車を送り出したあと、坂上さんがにっこりと笑った。
「今日の翔太は、ようやったぞ」
その一言に翔太の胸は熱くなり、心の中で「明日もがんばろう」と誓うのだった。
つづく