【第22話】まる、パトロールに出る?
「今日の現場は、あの公園の前か…」
朝の準備を終えながら、翔太はふと思った。
自宅からも近くて、よくまると一緒に散歩に来ていた場所だ。
昼間の舗装工事。通行人も多いし、気を引き締めていかないと。
そう思って現場に立っていたその時──
「…ん?なんか足元が…スリスリ…?」
下を見ると、茶トラのしっぽ。
「まるっ!? なんでここに!!」
制服姿の翔太にまとわりつくように、まるがご機嫌でスリスリしている。
リードも何もつけていない。どうやら、自宅の窓から抜け出してきたらしい。
「ちょ、ダメだって!危ないから戻りなよ!」
そう言ってもまるは聞く耳を持たず、
道路脇のベンチの下に陣取り、ゆったりとした姿勢で日向ぼっこを始めた。
「……まる、まさか現場が気になったとか…?」
そこへ近所のおばあちゃんが通りかかる。
「あら〜、あんたんとこの猫ちゃん?かわいいねえ〜。
お兄ちゃんと一緒に働いてるのかい?」
「いえ…たぶん勝手についてきただけで…笑」
おばあちゃんは笑ってまるの頭をなで、
「こうして見てくれてるだけで、安心するもんだよ」と言った。
その言葉に、翔太の心が少しだけあたたかくなった。
午後になり、差し入れを持って寺中さんがやってきた。
「お、まるも来てんのか。相変わらず自由だな〜」
「ほんとですよ。たぶん“今日は近場だな”って察知したんだと思います」
寺中さんはにやりと笑いながら、
「お前が立派になったから、まるも現場視察に来たんだろ。隊長の仕事ぶりをな」
と茶化す。
翔太は照れながら、まるの方を見る。
まるは気持ちよさそうに目を細めて、風に揺れる木の葉を見上げていた。
(…そっか。そばにいてくれるって、こういうことなのかもしれない)
帰り道。まるは何も言わず、翔太のあとをとことこついて歩いて帰った。
まるの小さなパトロール。
でも翔太にとっては、大きな支えになっていた──
つづく