【第21話】かけた情けは

夕方のショッピングモール。
誘導が終わって、休憩中の翔太は、ふとベンチに座る親子連れに目をとめた。
小さな女の子がアイスを落として泣いている。
母親が慌てて財布を探すも、中に小銭が足りない様子――。


それを見ていた翔太は、思わず立ち上がった。

「よかったら、これで…新しいのを」

そう言って、自販機の前でアイスを買い、そっと渡した。
母親は恐縮しながら何度も頭を下げたが、翔太は笑って言った。

「昔、僕も助けてもらったのを思い出しちゃって。。。」


翔太の頭に、ふとあの時の記憶がよみがえったのだった。

高校を卒業して間もない頃。
電車賃が足りず駅で困っていた自分に、見知らぬおじさんが無言で切符を買ってくれた。
「次、だれかに返してあげればいいから」――その人はそう言って去っていったのだった。

その恩を、やっと少しだけ返せた気がした。


社長の座右の銘は、こういうことなのかなと翔太は考えていた。

「恩は石に刻んで、水に流さず、また誰かに回すもの。」

翔太は笑って立ち去った。
その背中を、母親と女の子がじっと見つめていた。
「お母さん、、、」
女の子も何かを感じとっている。


つづく