【第16話】翔太の警備日誌|翔太、資格に挑む(後編)
――「受かった……」
スマホの画面に自分の番号を見つけた翔太は、思わず口元を手で覆った。
声に出せないほど、込み上げてくるものがあった。
これまでの勉強の日々、眠い目をこすりながら通った講習、頭がパンクしそうになった法令の暗記――。
全部が報われた瞬間だった。
「お母さん、受かったよ」
家に帰るなり、翔太は玄関で叫んだ。
キッチンから母が顔を出す。「ほんま?! やったやん!」
満面の笑み。翔太は、その笑顔が見たかったのだ。
翌朝、会社に報告すると、部長の二浦さんが両手を広げて待っていた。
「いや〜お見事。やればできる子やとは思とったわ!」
「……ありがとうございます!」翔太は照れくさそうに頭を下げる。
ベテランの寺中さんは、にやりと笑ったあと、ひと言。
「これで一人前やと思うなよ。現場は資格だけじゃ回らん」
でもその目は、どこか優しかった。
そして初めての“資格者”としての現場――片側交互通行の交通誘導。
今日は翔太が、無線を使って全体を指示する役目。
相方はベテランの坂上さんだった。
「おっ、翔太。やる気十分って顔してんな」
「緊張してます……」
「大丈夫。ミスしても俺がカバーしたる。でも、指示ははっきり出せよ」
開始早々、翔太の声が少し小さく、トランシーバー越しにかすれて聞こえた。
坂上さんが耳を近づけながら苦笑い。「おーい、もっと腹から声出せ!」
深呼吸をして、翔太は再び無線を握る。
「坂上さん、誘導開始してください!」
――声が現場に響いた。
自分の言葉で、車が動く。人が動く。
その重みと責任が、ズシリと胸に乗った。
午後、工事が長引き、交通の流れが悪くなってきた。
後続車からクラクションと怒声が飛ぶ。
「なにしとんねん、早よ行かせろや!」
翔太はすぐに駆け寄り、深く頭を下げた。
「申し訳ありません。児童の通過中につき、安全を最優先にさせていただいております」
その一言に、ドライバーの怒りが少し和らいだのがわかった。
坂上さんが無線で言った。
「……翔太、今の、よう言ったな」
その日の帰り道。
ふと見上げた空は、いつもより広く見えた。
警備の仕事は、黙々と立ってるだけじゃない。
資格は、その責任の重さを教えてくれた。
何のために、誰のために、自分が立っているのか。
翔太はそっとつぶやいた。
「俺、ちょっとだけ前に進めたかもな」
そして、次の目標を心に描いた――
「もっと頼られる警備員になる。どんな現場でも、みんなを守れる存在に」
まだまだ、翔太の成長は止まらない。
つづく → 次は翔太が隊長として初めて勤務するお話です。お楽しみに!