【第15話】翔太の警備日誌|翔太、資格に挑む(前編)
その朝、事務所の隅っこで翔太は見慣れない冊子を手にしていた。
《交通誘導警備業務2級 資格講習テキスト》
きっかけは、数日前の寺中さんのひと言だった。
「翔太、お前もそろそろ“上”を目指してみいへんか?」
「え、上って?」
「警備の資格をとるんだよ」
「え、資格っすか……? ぼくなんかに……」
「翔太、もう現場には慣れてきた。でもな、安全を守る側が“なんとなく”でやってたら、それが事故につながるんや」
「きちんとした知識と技術をもって、仕事をするのは大事なことや。みえてくるものもある。」
そう言って、静かに冊子を渡された。
初めての夜。
帰宅後、翔太はテキストを開いた。
道路標識の意味、交通誘導の原則、警備業法、安全距離、夜間の灯火器具の配置方法……
ページをめくるたび、まるで見たことのない世界が広がっていた。
「うわぁ……これ、全部覚えなきゃいけないのか……」
思わずため息がこぼれる。
そのとき、まるがテーブルの上に飛び乗り、前足でページをそっと押さえた。
「……応援してくれてるのか?」
まるが「にゃ〜」と返事した気がした。
次の日も、仕事終わりにカフェに寄って1時間勉強。
現場で覚えたつもりの知識が、実は“知らずにやっていた”ことだったと知って、愕然とした。
「資格って、ただの紙じゃないんだな……」
実技講習の申し込みを済ませた帰り道、翔太はふと思った。
「たぶん、これを取ったからって急にすごくなるわけじゃない。でも、自分で“責任”を持って立てる人になりたいんだ」
資格を目指すことは、翔太にとって「一段上の警備員になる」決意だった。
覚えることは山ほどある。頭も疲れる。
でも、現場で出会ったあの子ども連れのお母さんの「ありがとう」が、翔太の背中を押した。
「よし、やってやるか……!」
ページをめくる手に、少し力が入った。
つづく → 次は翔太が資格取得を目指すお話<後編>です。お楽しみに!