【第12話】翔太の警備日誌|初めてのトラブル対応

商業施設の駐車場は、平穏そのものだった。翔太はいつものように明るい笑顔で車両を誘導し、来店客に挨拶を送る。
心地よい風が吹き、穏やかな空気が広がっていた。翔太の耳には、鳥のさえずりや車のエンジン音が心地よく混ざり合っていた。


その時、翔太の誘導を無視して1台の車が突っ込んできた。
「ガシャン!」 突然、鋭い音が駐車場に響いた。振り返ると、白い乗用車と黒いワゴン車が軽く接触し、両方の運転手が車から降りて激しく口論を始めていた。
翔太は思わず息を飲んだ。
偶然、買い物中にとおりかかったあかりが、心配そうにみまもっている。


「どうしてこんな所で止まるんだ!」「そっちが急に曲がってきたんだろう!」

二人の声は次第に大きくなり、周囲の人々も立ち止まって様子をうかがう。
翔太は一瞬固まったが、すぐに深呼吸して心を落ち着けた。
そして足早に二人に近づき、落ち着いた声で話しかけた。

「お二人とも、まずは安全な場所に車を移動しましょう。」

言葉通り、車を移動させると、翔太はすぐに寺中さんに電話で連絡を入れ、状況を報告。寺中さんは穏やかな声で言った。


「よし、翔太。まずは冷静に、相手を落ち着かせろ。警察も呼んで対応だ。」

「わかりました。」翔太は、口論している二人に声を掛けた。

「大丈夫です。警察も呼んでいますので、落ち着いて話し合いましょう。」

翔太の声にはまだ緊張が混じっていたが、それでも必死に冷静を保っている。
その姿を見た通行人の中には、「若いのにしっかりしてるね」と感心する声もあがった。
警察の対応が終わり、ドライバーたちはそれぞれ感謝の言葉を残し、去っていった。
現場が落ち着いた後、寺中さんが現れて、翔太の肩をポンと叩いた。


「よく冷静に対応したな、翔太。頼りになるぞ。」

寺中さんのその一言が嬉しくてたまらなかった。
初めて経験するトラブル対応だったが、少し自信がついたような気がする。

「ありがとうございます。でも、正直、最初はどうしていいかわからなくて……」

「それでいいんだ。経験を重ねることで、次はもっと自然に動けるようになる。今日の対応は十分合格だ。」

寺中さんの優しい笑顔に、翔太の胸が熱くなった。

「はい、次も頑張ります!」

翔太は少し誇らしげに胸を張り、初めて自分の成長を実感した。


つづく → 第13話:伝わらなかった言葉、思い