【第46話】寺中さんと通信工事の現場

朝から、現場は落ち着かなかった。

通信工事のバケット車は、止まって作業する時間より、走っている時間のほうが長い。
電柱、交差点、歩道橋の手前――
少し進んでは止まり、また少し進んでは止まる。


「翔太、行くぞ。次、あの先な」

寺中さんは、無線を耳に当てながら、もう次の場所を見ている。
バケット車がゆっくり走り出すと、二人も小走りで追いかけた。

片道二車線の道路では、すぐに一車線を規制。
コーンを置く位置、看板の向き、誘導棒の振り方。
迷いがない。

数百メートル先で、またバケット車が止まる。
今度は片道一車線。


「ここは片交やな。俺が向こう持つ。翔太、こっち頼む」

切り替えが早い。
さっきまで二車線規制だった現場が、あっという間に片側交互通行に変わる。

車の流れ、歩行者、自転車。
全部が同時に動いているのに、寺中さんの動きは静かだった。


無線で工事の進み具合を確認しながら、
車と人の動きを確認している。

「警備はな、今を見てるだけじゃ遅い。
“次にどうなるか”を考えとかなあかん」

翔太は、誘導棒を握りながら、何度もその背中を見た。

現場は目まぐるしく変わる。
でも、寺中さんがいると、不思議と混乱しない。


昼前、少しだけ間が空いたとき、翔太は思わず口にした。

「寺中さん……正直、すごいっす」

寺中さんは、少しだけ口元をゆるめた。

「長くやっとるだけや。
でもな、こういう現場は好きや。生きとる感じがするやろ」


翔太は、強くうなずいた。動く現場。
止まらない判断。
その全部をさばいていく背中が、今日はやけに大きく見えた。

――いつか、自分も。
そう思いながら、翔太は次の誘導に備えて、深く息を吸った。


続く