【第45話】二浦部長とシフト表
朝の事務所。
二浦部長は、壁に貼られたシフト表とにらめっこしていた。
「……足りん。どう組んでも一人足りん……」
雨予報、夜間工事、イベント警備の重なり。
体調不良の連絡、家庭の事情、急な変更。
事務所の電話は、今日もよく鳴る。
「はい、二浦です。……ああ、了解。無理せんでええよ。代わり、探すから」
受話器を置くたび、鉛筆で線を引いては消し、また引く。
消しゴムのカスが、机の隅に小さく積もっていく。
そこへ、翔太が顔を出した。
「おはようございます。二浦部長、なんか……大変そうですね」
「おう、翔太。見ての通りや。
警備は現場が主役やけどな、
裏で崩れんように支えるんが、管制の仕事や」
二浦部長は、少し照れたように笑った。
そのとき、一本の電話が鳴った。
「もしもし……え? 今日、入れます?
……ほんまに? 助かります!」
受話器を置いた瞬間、二浦部長は小さくガッツポーズ。
「よっしゃ、これで回る」
翔太も、つられて笑った。
「部長、すごいですね。
現場に立ってなくても、みんなを守ってる」
「はは、そう言われるのも悪ないな」
昼過ぎ、シフトがようやく完成した頃。
机の上には、冷めかけたコーヒー。
二浦部長はそれを一口飲んで、ふっと息をついた。
「……あ、そうや」
引き出しから、小さな袋を取り出す。
「昨日、現場の人にもろたんや。
“いつもありがとう”ってな」
中には、コンビニの肉まんが二つ。
「翔太、半分こや」
「え、いいんですか?」
「ええんや。
こういうのがあるから、また明日も頑張れる」
事務所に、ほかほかの湯気と、やさしい笑い声が広がった。
その日、誰も大きなトラブルはなかった。
それが、二浦部長にとって一番のご褒美だった。
続く


