【第33話】仕事の中のやさしい時間
昼の工事現場。秋晴れの空の下、翔太と寺中さんは交通誘導の現場に立っていた。
人通りも少なく、風が心地よい。
そんな中、現場近くの植え込みから、ふわっと茶色い影が──
「お、翔太。足元、気ぃつけろよ。」
「え?──あっ、まる!? なんでここに!」
現場近くの茂みから、まるが顔を出した。
赤い首輪が、陽にきらりと光る。
「おまえ、また勝手に出てきたんか~」
翔太が苦笑しながら抱き上げると、まるは「にゃー」と返事をして喉を鳴らす。
寺中さんも、いつもの厳しい顔をゆるめて笑った。
「まぁ、今日は天気もいいしな。まるも現場点検や」
その後しばらく、二人と一匹で、仕事の緊張の中でもほのぼのした時間が流れた。
車の少ない交差点で、翔太はまるにも気をつけながら、誘導棒を振る。
まるは翔太に背を向けて、いつもまでもまんまるくなって、ウトウトとしていた。
通りかかった小学生たちが「猫だ!かわいいー!」と笑顔で手を振る。
翔太も「安全に渡ってね!」と笑顔で応える。
まるはうれしそうに「にゃっ」と鳴いた。
その声に、寺中さんも思わずつぶやく。
「こういう日が、一番ええな」
翔太はうなずきながら、青空を見上げた。
「はい。なんか、こんな時間って……悪くないですね。」
夕方、現場が終わるころ。
まるは寺中さんのヘルメットの上にちょこんと乗り、トラックの助手席へ。
「お前、ほんまに現場好きやな」
「にゃっ」
エンジン音とともに、夕焼けの中へ消えていった──。
つづく