【第26話】資格が救った現場
休日のショッピングモールは、まるでお祭りのようなにぎわいを見せていた。
駐車場には次々と車が押し寄せ、子ども連れの家族や買い物袋を抱えた人々が忙しなく行き交っている。
警備員たちは汗をぬぐいながらも、それぞれの持ち場で交通の流れを維持していた。
その最中、駐車場内に設置された信号機が突然点かなくなった。
赤も青も表示されず、ただ暗く沈黙するだけ。
最初は気づかずに進む車もあったが、やがて列が詰まり、ドライバーたちは困惑してブレーキを踏んだ。
クラクションが鳴り響き、歩行者は立ち止まって不安そうに様子をうかがう。瞬く間に駐車場全体が混乱に包まれた。
「どうするんだ…」と小声でつぶやく後輩。
その表情は焦りに染まっていた。翔太も胸がざわついた。
だが次の瞬間、制服の胸ポケットに差し込んだ資格証が目に入る。
先日取得した「交通誘導警備2級」。
講習で繰り返し叩き込まれたのは、どんな状況でも歩行者の安全を確保する事だった。
「俺がやらなきゃ…!」翔太は深呼吸し、赤い誘導棒を大きく掲げた。
まず歩行者を優先させるために駐車場の車を完全にストップさせる。
歩行者が安心して横断できるよう大きく合図。声も張り上げて「どうぞ!」と伝えた。
おびえていた親子連れが笑顔を取り戻し、小走りで駆け抜けていく。
お年寄りも「ありがとう」と会釈しながら渡っていった。
続いて翔太は車両を片側ずつ流し、渋滞を整理する。
力強く、しかし落ち着いた動き。
講習で身につけた知識が自然と体に染み込み、自信を支えていた。
後輩たちも翔太の動きを見て持ち場で連携し、ベテランもその判断に頷きながらサポートした。
ほんの数分で、あの混乱が嘘のように静けさを取り戻した駐車場。
車は規則正しく流れ、人々の顔にも安堵が戻っていた。
勤務終了後、寺中さんが翔太に近づき、静かに言った。
「翔太、資格は紙切れじゃない。知識と経験は、人を守る武器だ。今日はよくやったぞ」
翔太は照れくさそうに笑いながらも、胸の奥にじんわりと自信と温かさを感じていた。
「勉強して、本当に良かった。これからも胸を張って、この制服を着よう」
続く