【第25話】信じて待つ強さ

夜の道路は、昼間とは別の顔をしていた。
暗闇の中、照明車のライトに浮かび上がる工事現場。赤い誘導灯の明かりが揺れ、車列が静かに伸びている。


翔太と寺中さんは、片側交互通行の規制に立っていた。
工事は予想以上に時間がかかり、車の列は長くなる一方。
クラクションが鳴り響き、窓から顔を出して「いつまで待たせるんや!」と声を荒げるドライバーもいた。

翔太は慌てて頭を下げる。
「すみません!もう少しで通れますので!」
必死で声を張るが、そのたびに胸がざわついた。
――自分のせいでみんなを怒らせてるんじゃないか。
そんな不安が心を締めつける。


そのとき、横に立つ寺中さんがぽつりとつぶやいた。
「翔太。人は“待たされる”とすぐ不安になる。行きたいのに進めないからな。
でもな、警備員の仕事はただ車を止めることちゃう。“安心して待てる空気”をつくることや。」

翔太は思わず寺中さんの横顔を見た。
彼の背筋はまっすぐで、合図はゆったり大きく、表情には焦りがない。
赤い誘導棒がしなやかに動き、その姿は頼もしく、どこか安心感を与えていた。


――自分にはまだ足りないものがある。

翔太は深呼吸し、気持ちを切り替えた。
「ただ止めるんじゃなくて、信じてもらうんだ」
そう心に刻み、
・誘導棒を大きくはっきりと振る
・胸を張り、姿勢を正す
・車のドライバーとしっかり目を合わせて軽く会釈する
小さな工夫を一つずつ重ねていった。

不思議なことに、次第にドライバーの表情も変わっていく。
苛立ちの声が減り、中には窓を開けて「ご苦労さんやな」と声をかけてくれる人もいた。
その言葉に、翔太の胸はじんわり温かくなった。


勤務が終わり、帰り道で夜空を見上げた翔太。
満天の星を見ながら、ふと病院のあかりを思い出す。
手術に挑む彼女もまた、“信じて待つ強さ”を持っているのだろう。

「俺も、負けてられないな」
翔太は心の中でつぶやいた。
誘導棒を握る手に、これまでよりも確かな自信が宿っていた。


続く