【第24話】まる、脱走する!?
その朝、翔太はいつものように制服を着て、まるの頭を軽くなでた。
「じゃあ、行ってくるな。留守番頼むぞ」
「にゃー」
まるは小さく返事をしたが、扉が閉まる音がした瞬間、すっと窓辺に向かう。
少しだけ開いた窓の隙間から、器用に外へ――
「にゃっ!」
青い空の下、自由を感じたまるの足は、自然と病院の方向へと動いていた。
病院の庭。
車いすに座るあかりは、マスクを外して春の風を胸いっぱいに吸い込んでいた。
「……はぁ。みんな学校に行ってる時間だな。私も行きたいな…」
そんな小さなつぶやきが、風に消えそうになったとき。
「にゃああ!」
聞き覚えのある声。
「あっ……まるちゃん!?」
信じられない光景に、あかりの目が丸くなる。
まるは駆け寄って、ひょいっと彼女の膝に飛び乗り、顔をすり寄せる。
「ふふっ……ほんとに来てくれたんだ。すごく、あったかい」
あかりは涙をこらえながら、まるをぎゅっと抱きしめた。
「ありがとう。元気がなくて、さみしかったんだ。でも……まるちゃんのおかげで、少し勇気がわいてきた」
一方その頃。
仕事の合間に翔太は事務所で電話を受け、顔を真っ青にした。
『……えっ!?まるが病院に?』
勤務を終えると、翔太はすぐに病院へ直行。
そこで見たのは、ケージの中でしょんぼりしているまると、名残惜しそうに見送るあかりの姿だった。
「……まる、お前ってやつは」
翔太は呆れながらも、胸の奥がじんわりあたたかくなっていた。
「翔太にいちゃん」
あかりが呼び止める。
「まるちゃんのおかげで、またがんばれそう。だから……ありがとう。」
翔太は思わず笑顔になり、
「いや、礼を言うのは俺の方だよ」
と答えた。
帰り道。
まるを抱きかかえながら翔太はつぶやく。
「お前……ほんとにすごいな。俺にはできないことまでしてのけるんだから」
まるは「にゃあ」とひと声あげ、満足そうに目を細めた。
続く