【第20話】見守る仕事、伝える勇気

その日、翔太の現場は、大型ショッピングモールの館内警備だった。

真夏の屋外とは違い、涼しい館内。でも、任される業務は幅広く、気は抜けない。巡回中は常に周囲の状況に目を配る。
「人の流れを読む」「不審者を見逃さない」――思っているよりずっと難しい仕事だ。


昼休憩に入り、翔太は裏手の従業員用スペースからそっと館内を見渡す。
そのとき――エントランス前のベンチで、小さな女の子が一人、うつむいて座っていた。

翔太はその子を見て、思わず目を見開いた。

「あかりちゃん…?」

忘れるはずがない。以前、工事警備で通った総合病院で出会った少女。
重い病気を抱えながらも、笑顔を忘れない強さを持っていたあの子だ。

翔太が近づこうとしたその時、女の子の隣に女性が戻ってくる。あかりの母親だった。
(病院の帰り…なのかな)

翔太はそっと距離を取って見守る。あかりは翔太に気づいた様子だったが、声はかけない。

午後、翔太が巡回を再開した直後、館内アナウンスが流れる。


「お客様にお知らせいたします。現在、2階エレベーターホールにて迷子のお子様をお預かりしております――」

翔太は無線を手に、すぐさま2階へ急行した。

現場では、年長の警備員が小さな男の子を抱きかかえていた。
泣きじゃくるその子に声をかけても、うまく会話ができないようだ。

翔太はしゃがみ込み、優しく声をかけた。

「大丈夫。ママ、きっとすぐに来るよ。ここにいれば、安心だからね」

男の子は、翔太の誘導棒を見つめ、少しだけ泣き止んだ。

翔太はスマホを持った女性が駆け寄ってくるのを見て、すぐに立ち上がる。

「もしかして…このお子さんのお母様ですか?」

「はい!ありがとうございます!」

無事に親子が再会し、翔太はほっと胸をなで下ろす。


その様子を、1階から見ていたあかりがそっと近づいてきた。

「…すごいね、翔太にいちゃん」

「あかりちゃん…!」

「私ね、今日、検査の帰りなの。少し…よくなってきたって。まだ通院は続くけど、希望が見えてきたの」

翔太は、心からうれしかった。思わず、少し涙ぐみそうになる。

「よかった…。本当に、よかった」

「ありがとう。あのとき、翔太くんが私にくれた“まる”のシール、今も大事にしてるよ」

翔太は照れくさそうに笑う。


「俺たち警備員はね、目立たないけど…誰かの“安心”を守ってるんだって、今日改めて思ったよ」

「うん…。私も、そんなふうに誰かに寄り添える人になりたいな」

「なれるさ。あかりちゃんは、もうそうなってるよ。俺、元気もらってるから」

別れ際、あかりがふと立ち止まり、少し勇気を出した声で言う。

「ねえ、翔太にいちゃん…また会ってくれる?」

翔太は迷いなく答える。

「もちろん。また会おう。今度は、まるも連れてくるからさ」

その瞬間、2人の間に、小さな約束が生まれた。


つづく