【第17話】翔太の警備日誌|翔太、隊長になる

朝の空気は、少し冷たく感じた。
今日はいつもと違う――翔太が、初めて「隊長」として現場に出る日だった。

資格を取得したとはいえ、実際の現場で指示を出すのは初めてのこと。
集合場所に向かう足取りも、いつもより少し重かった。


「おはようございます、翔太隊長!」

先に来ていた二人の隊員が、笑顔で声をかけてくれた。
一人は新人の坂下さん(20歳)、もう一人はベテランの丸田さん(65歳)。

翔太は一瞬戸惑ったが、思いきって声を出す。

「お、おはようございます。えっと…今日はよろしくお願いします!」

――緊張してるの、ばれてるよな…。

自分でそう思いながらも、事前に作っておいた配置図を見せながら説明を始める。


「坂下さんは第一交差点。丸田さんには裏口側をお願いします。
誘導棒の動きと無線のタイミングは確認しておいてください。何かあったらすぐ無線で連絡を」

自分でも驚くほど、言葉がスムーズに出た。

午前中のラッシュ時。
坂下さんがトラックの通過に戸惑っているのを見て、翔太はすぐ駆け寄った。

「落ち着いて、大丈夫。まず歩行者を先に通して、そのあとに右から左へトラック誘導ね。
合図はこうやって、少し大きめに!」

坂下さんが「はい!」と頷き、動きが安定していく。
それを見て、翔太は心の中で小さくガッツポーズ。


昼休み。丸田さんがぼそっと言った。

「…翔太くん、なかなか筋がいいな。最初の頃の君を思い出すと、別人みたいだ」

翔太は照れくさそうに笑った。

午後も無事に終わり、現場を片づけて解散。

最後、坂下さんが言った。

「今日、隊長が翔太さんでよかったです。最初すごく緊張してましたけど、すぐ安心できました!」

翔太は、少し照れながら答えた。

「ありがとう。でも、僕もめちゃくちゃ緊張してたよ。でも、二人がいたから頑張れた」


帰り道、制服のポケットに手を入れると、いつも持ち歩いている母からの手紙が出てきた。
「人に伝えるって、勇気がいる。でもその先には、きっと誰かの安心がある」――そんな言葉が書かれていた。

翔太は空を見上げた。

「よし、次の現場も、がんばろう」

彼の背中には、もう“隊長”としての自信が、確かに宿っていた。


つづく