【第7話】翔太の警備日誌|おしゃべりな先輩、静かな教え

朝。
「(いってらっしゃい)にゃ〜」
まるの声が聞こえた気がして、翔太は微笑んだ。
ふと、心の中でつぶやく。
「家族がいるって、こういうことなのかもしれないな……」
温かいものが胸の奥に広がる。
翔太はそっとキャップをかぶり直し、事務所へと向かった。


事務所に着くと、見慣れない背中が。
「おー、翔太くん!きょう一緒だって聞いてるでー!いや〜ここのとこ腰がさ、でも昨日のテレビがまた面白くてさ…」
「崎川さん…ひさしぶりですね…」
「ほんま、ほんま。きょうの現場は前に1回行ったことがあるで」
「せまい路地でな、たぶんきょうも通行止めになると思うわ…」

ずっとしゃべっていた…


今日の現場は、午後からだ。
細い住宅街の路地を通行止めにしての水道工事だった。
そこに入ってこようとする車のドライバーに、
「すみません、こちら工事中でして…迂回をお願いできますか?」と丁寧に頭を下げる翔太。

みればわかるのに、なんで入ってこようとするんだろうと翔太は思った。
崎川さんは横でサッと地図を出して案内する。
普段のマシンガントークはどこへやら、視線も態度もキリリとしていた。


帰り道。
「なぁ翔太、オレらは警官ちゃう。強制はできへんねん。」
「あくまで“お願い”する立場や。そこを、勘違いせんようにな」

翔太はハッとした。
「…はい」

言葉数が少なくても、響く教えがある。
まるの迎えを受けながら、翔太はまたひとつ、警備の奥深さを知ったのだった。

「うんっ!明日がみえてきた。」


つづく → 第8話:翔太とあかり