【第6話】翔太の警備日誌|まるとの出会い

4月某日。今日は夜勤明けの帰り道。

冷たい雨がぱらぱらと降っている。
片側交互通行の現場で、坂上さんと交代しながら頑張った一日。
「今夜も何とかやりきった…」
だけど、どこか心がぽっかりしている。


翔太は、少しだけ落ち込んでいた。
昨日、先輩に注意されたことが頭から離れない。

「お前、まだ“人に見られてる”ってことを意識してないだろ」
「だから車は、とまってくれないんだよ」
「合図は早めにだして、多少大げさになるくらいのジェスチャーをしないと」
「あと、必ず最後に頭をさげて -ありがとう- の気持ちを忘れないようにな」

自分では頑張ってるつもりでも、なかなか思うようにはいかないようだ。

「オレって、向いてないのかな……」


そんなふうに、肩を落として歩いていたときだった。
道端にとまっているトラックの荷台で何かが動いた。

「……ん?」

よく見ると、小さな茶トラの子猫。
全身が濡れて、ブルブルと震えている。

「おまえ、こんな雨の中で……」

翔太は、そっと傘を差しかけた。
子猫は、警戒しながらも、じっと翔太を見上げている。

その目が——
どこか自分と重なった。

不器用で、頼りなくて、でも必死でがんばってる。


「……おれと似てるな」

翔太は静かにしゃがみこみ、制服のふところに子猫を包んだ。

「大丈夫。こわくないよ。……そうだな、名前……」

ふと、口をついて出た言葉。

「……まる。おまえ、まんまるで可愛いから今日から“まる”だよ」

その瞬間、小さな“まる”が、にゃあと鳴いた。

——その鳴き声は、翔太の胸の奥に、ぽっと小さな灯りをともした。

「ふふっ、明日がみえてきた。」


つづく → 第7話:おしゃべりな先輩、静かな教え