【第5話】翔太の警備日誌|片側交互通行、はじめてのペア

春の陽ざしがまぶしい朝。
今日の現場は、片側交互通行の交通誘導。翔太にとっては、はじめての「片交」の現場だ。


「今日の相方は坂上さんやで」
二浦部長の声に、翔太はよろこんだ。

今日は、色々教えてもらうぞ…

坂上さんは、どこか落ち着いた雰囲気のベテラン警備員。
あまり多くを語らないが、現場での信頼は厚い。

「片側交互通行は、ひとつのミスが事故につながる。気を抜いたらあかんで」
坂上さんの一言に、翔太はゴクリと唾を飲んだ。


現場に立ち、無線を手に持つ翔太。坂上さんの声が聞こえる。

「こちら坂上。3台通してええで」
無線の指示に従い、誘導棒を振る。
1台、2台、3台……と無事に車を通す。

だが、そのとき。
対向からバスがやってきた。


「えっと……次、どうするんやったっけ……」
バスの大きさと視線に圧倒され、翔太は一瞬固まる。

そのとき、坂上さんが無線で呼びかけた。
「翔太、バス来てるやろ?バスは優先や。無線で報告せんとあかん」

「す、すみません!」
焦った様子の翔太に、坂上さんは言った。

「まあ、誰でも最初はそんなもんや。よう気づいたな」
その言葉に、翔太はほっと息をついた。


昼休み。二人は並んで缶コーヒーを飲む。
「焦るときもある。でも大事なんは、立て直すことや」
坂上さんの言葉は、どこかあたたかかった。

(今日もまた、現場から学んだ)
翔太は空を見上げ、ほんの少しだけ自分に自信が持てた気がした。

「よしっ、明日がみえてきた。」


つづく → 第6話:まるとの出会い