【第3話】翔太の警備日誌|誘導の基本、足元から
朝、現場へ向かうバスの中。
翔太は緊張した表情で窓の外を見つめていた。
今日はショッピングモールの駐車場での誘導。
歩行者、ベビーカー、買い物カート、車…。
いろんな動きが交差する場所だ。
現場に着くと、寺中さんが淡々と説明を始めた。
「今日は“歩車分離”が命や。安全第一。歩行者を優先に、車両には止まってもらうタイミングを間違えんように。」
翔太はうなずきながらも、
(自分にできるかな…)と内心ドキドキしていた。
昼過ぎ。
ちょっとした事件が起きた。
翔太の足元に置いた誘導棒が転がり、通路を横切ってしまったのだ。
反射的に拾いに走ろうとした翔太を、寺中さんがピシャリと止めた。
「待て翔太!下がれ。ああいうときは“自分の安全”が最優先や!」
心臓がバクバクしたまま、翔太は深呼吸した。
寺中さんが代わりに拾ってくれたあと、静かに言った。
「初心のうちは、道具を扱うより“足元”の大事さを覚えろ。転がるのは棒だけでええ。」
「それとな、誘導棒にひもがついてるやろ。手に巻いて落とさないようにするためや。道具にはいろんな工夫があるんやで」
翔太は深くうなずき、しっかりと誘導棒を両手で握りしめた。
現場が終わる頃、少しずつ動きにも慣れてきた翔太。
夕焼けの中、子ども連れの母親に笑顔で頭を下げられたとき、
少しだけ、自分の中の不安が晴れた気がした。
その夜、翔太は帰宅後、制服をハンガーにかけながらつぶやいた。
「…道具も大事だけど、まず自分が安全じゃないと、守れないもんな。」
「よしっ!明日がみえてきた。」
つづく → 第4話:翔太の母、挨拶にくる